JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「時代を越えるストレージ」



<時代の変化>
今年の5月に元号が改まるため、昨年末や新年には直近30年間を振り返る特集テレビ番組や記事が発信されていたことは記憶に新しい。「平成時代」に対する捉え方は、視聴者・読者の年齢によって様々であると想像されるが、ベルリンの壁崩壊に象徴されるように政治的にも経済的にも世界規模で激動の時代であったことは間違いない。
その30年間は、コンピューターや通信の技術においても飛躍的な進化をもたらし、人々の日常生活に不可欠な技術となっている。今日インターネットサービスがなければ、知人と情報交換することもできず、道案内や天気予報もリアルタイムに知ることができず、また商品を購入することもできないかもしれないが、これらの基礎となるWebサービスが30年前にまったく存在しなかったことを想像することはもはや難しい。IT技術の進化の速さを表現する語として「ドッグイヤー」が使われることがあるが、この30年間はまさしく人間の数世代分の変化をもたらした濃厚な期間だったと言えるだろう。
その一方で、デジタル世界はいまだ発展途上であり、これまでに長い年月をかけて培ってきた非デジタル世界の習慣や経験を再構築する必要がでてきている。人々が安全に共生するために必要な法律やエチケットのようなルール作りや、サイバーセキュリティーのための監視の仕組みの確保は、その典型であろう。そして、人類がこれまで工夫によって知識や経験を継承してきたように、デジタル世界でも確実な情報継承を実現することについても考えてみる必要があるだろう。

<情報を保管するとは何か?>
さて、子供の頃に「伝言ゲーム」という遊びをしたことがあるだろうか? 参加者が一列に並び、ある文章を前の人から後ろの人に順に口づてに教えていくゲームだ。聞き取る能力、記憶力、そして正確に再生する能力が試される遊びで、最後に先頭の人と最後尾の人が答え合わせをして、いかに正確(あるいは不正確に)に伝わったかを楽しむ。単純な文章ならば簡単な作業だが、文章が長く複雑になる程に文章が微妙に変化して伝わっていく。ましてや、言葉ではなく歌や絵の伝言となると滑稽なほどに変化して伝わっていくに違いないが、このような情報の変質が伝統文化・芸能の世襲で発生しては困ったことになろう。実際には、能や歌舞伎などは宗家がきちんと後継者を代々育てることを何百年も続けているのだからその継承システムは実証されているといえるだろうし、20年毎に千年以上も続いているという式年遷宮も同様だ。
では、このように世代を超えて情報を伝える技術がデジタル社会で確立しているかと問われると、現代的なコンピューターが使われている期間が高々30年しかないことを考えれば、それを担うシステムの悩みは大きい。まさしく情報システムにおける「聞き取る能力、記憶力、そして正確に再生する能力」を様々な観点から検証してみる必要がある。

<ビットの保管≠情報の継続>
先ほどの伝言ゲームの例で「今日はいい天気でした」という文章を伝えるとしよう。ゲームのルールを変えて、聞き取ったことをメモ書きにして良いことにすれば、伝言が正しく伝わる度合いが高まる。列の前の人にメモを確認してもらうようにしたり、メモを直接見えるようにすれば、100%伝言が維持されるに違いない。
コンピューターにおけるストレージ装置の役割は、この「メモ書きの紙」にあたる。記憶しておきたい内容を、何らかの形式で保管し、次に利用する際に読み出せるようにするものだ。子供たちが楽しむゲームのように、情報の利用者があらかじめ分かっており、メモ書きを直後に利用するのであれば何の問題も起きない。毎日使うデータであれば、ストレージは確実に保管できるのである。
では、ゲームのルールを変えて、10人が一年に一人ずつ伝えてゆき10年後に答え合わせをするのであればどうだろう?10年の間にメモの存在を忘れてしまったり、保管場所を忘れてしまったりするかもしれない。さらに式年遷宮のように20年に1回ずつ伝言するゲームであれば、ゲームの完了まで200年間掛かるのであるから、もはや直接答え合わせをすることすらできない。ゲームの参加者も予め決められないとなると、そもそもメモ書きを後世の人に理解できるかも分からず、3つの言葉で書かれていたロゼッタストーンを思いおこせば、"Today was a fine day"と併記しておいた方が良い場合すらあるかもしれない。
データを長期保管することの難しさは、このような長期間の伝言ゲームに匹敵する。単にストレージ内にビットが永続的に保管されるかということではない。データの生成者が不在のなかで、データが生成されたコンテキスト(背景や状況)や情報の形式が伝わるのかが関わってくるのである。写真画像に埋め込まれている位置情報が撮影場所を教えてくれるように、データだけではなくその付随情報(メタデータ)の保全が重要になってくる。

<テープストレージが果たす役割と将来>
このメルマガでは、これまでテープ媒体の信頼性、長期保管性、高速性をお伝えしてきた。これらは、データを経済的に保管することをもたらす重要な特徴で、今後も進化しつづけていくに違いない。
2010年に登場したLTFS(リニアテープファイルシステム)は、テープ媒体の特徴を活かしてファイルを保管する技術であるが、場所や時間の壁を越えてアクセスできるようにする普遍性を目的にしている。テープ内にメタデータを付与して保存するという自己記述性も長期保管に役立つ特徴だ。LTFSが、国際標準化団体ISOで標準規格ISO/IEC 20919:2016として採用されたことは、このフォーマットの利用を促進するに違いない。
デジタル社会で飛躍的に増大するデータを長期に継承するためには、媒体やファイルシステムよりも上位に統合的な技術やベスト・プラクティスが必要になってくるであろう。検索エンジンのようなメタデータの管理・検索技術が長期保管にも適用され、一方で個人を特定する情報を限定的に公開できる技術が社会に浸透してくれば、デジタル社会における情報の継承が進むことが期待できる。コンピューターの今後の発展を考えると、一技術者として新時代に対してワクワク感が止まらないのである。

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
Co-chair of SNIA Linear Tape File System (LTFS) Technical Workgroup
日本アイ・ビー・エム(株) 石本 健志
本内容にてご質問などございましたら、JDSF事務局経由でお願いいたします。

 

JEITAテープストレージ専門委員会コラム 2019年2月「時代を越えるストレージ」
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