第5回
壁に耳あり、
障子にスマホあり
1. はじめに
2019年9月に、英Comparitechが運営する比較サイトcomparitech.comは、中古HDDに個人情報が残っているかどうかを調査した結果を発表しました。詳細については、@ITの記事 「『中古HDDの6割』に個人情報が残存、英Comparitech」 を参照ください。要は、販売されている59%の中古HDDに、何がしかの個人情報が消されずに残り、読み出し可能であったという事実です。中古パソコンや中古HDDでの個人情報や企業データの漏えい問題はパソコンの利用が一般的になった数十年前から話題となった事実です。すでに、その消去問題は、当然解決すべき問題であり、その解決策も一般的であるのですが、実際はこの調査のように中古HDDの多くに個人情報が残されたままになっています。この調査は英国に限られていましたが、個人情報の扱いには非常に敏感であるはずの欧州ですらこの結果です。日本国内に目を向けた場合、日本ではあり得ないと言い切る根拠はありません。さらに、未だに個人情報が入ったUSBメモリやパソコンの紛失が毎週のように報道されています。おそらくマスコミで報道されるのはほんの一部であり、その何倍も、何十倍も不祥事は起こっているはずです。そして現在はスマートフォン(スマホ)の時代です。機内や車内でスマホの置き忘れが多発しているようですが、そのうちの少なくない件数が第三者の手に渡り、スマホ内の個人情報、企業情報にアクセスされていることでしょう。
このような情報漏えいは本人や企業自体の失策であり、いわば自身に主として原因がある能動的な情報漏えいですが、反対に他者から予期せぬ情報漏洩、いわば受動的な情報漏えいも深刻です。昨今、大きく取り上げられる不正アクセスによる情報漏えいがそれにあたります。しかし、それ以外にもさらに身近な情報漏えいが存在します。また、その情報漏えいは意識せずに他者の情報を漏えいしてしまう可能性も含んでいます。
2. 証拠写真か盗撮か
数年前、ある大学の幹部級事務職員が勤務時間中にもかかわらず、大学内のパソコンを使ってアダルト動画サイトを閲覧し、その様子を学生が隠れて撮影、ツイッターでの写真として投稿、公開されるという事件が起こりました。この発覚によって事務職員は処分を受けることとなりました。
もちろん、この事務職員の勤務態度に大きな問題があり、それを理由に処分されるのは当然ですが、いついかなる時にでも覗き見られるだけでなく、写真や映像として記録され、それも公開されてしまうということが問題です。公開した学生は、大学内での事務職員の許されない行為として義憤にかられ、正義感から投稿したかもしれません。しかし、この学生の行為も一概に褒められたものではありません。事務職員の了解を得ずに撮影した行為は盗撮に相当し、公開した行為はプライバシーの侵害や名誉毀損にもなり得るのです。
3. 問題となる投稿写真
一瞬の義憤に駆られ、正義感から、そして自分が正しいことを強く主張したいがために写真等に記録して、ツイッター等で公開することがあります。たとえば通勤通学途上の電車内で足を広げて座っていたり、座席を荷物等で占有したりしている人を写し、批判する人がいます。しかし、結果的に批判されるのは、写真を公開した本人なのです。ツイッター等でのアカウント(名前)が匿名であったとしても大概の場合、特定されてしまい、いわゆる炎上という状態になります。炎上とは、ある投稿記事がきっかけとなって、その関係した人がネットで批判され、その批判だけでなく、真偽は別にして、関係者へのありとあらゆる誹謗中傷が多数投稿される現象です。今ではほとんどの人が常にカメラを持ち歩いている状態であり、さらにSNS等で簡単に投稿できる状態になっています。我に返って考える間も無く、一瞬で撮影、投稿できてしまうのです。常日頃、写真を撮影し、そしてSNS等で投稿している人は十分注意しなければなりません。一瞬の義憤が冷静さを失い、炎上に至ることになるのです。
4. ショルダーハッキング
そしてこの事務職員のようにいつ秘密が暴かれるかわかりません。正確には、いつ誰が見ているか常に気をつけなければならないということです。すぐに写真に撮られてしまうことを十分想定しなければなりません。たとえばパソコンやスマートフォン(スマホ)の画面を覗き見られるだけではありません。パソコンやスマホには履歴というものが必ず残り、それを見れば何を見ていたのかがわかってしまいます。常に自身が持ち歩くスマホであったとしても、少し目を離した隙に、履歴を見られることは十分にありえます。心配な方は履歴を残さないようにすることが必要です。
さらに気をつけなければならないことは「ショルダーハック」という方法です。それはその言葉が表すとおり、肩越しにパソコンやスマホの画面を覗くことです。電車等で映像や記事を見たり、SNSでメッセージを書いたりする人も少なくありません。スマホをいじっている人は自分の世界に入り込んでいる人がほとんどであり、他人の目を気にすることはありません。さらに、窓を背にして座っているからといって安心できません。夜などはスマホの画面が窓に映って、目の前の人に筒抜けとなっていることもあります。