JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「未来のテープ」



2019年7月にINSIC(Information Storage Industry Consortium)からTechnology Roadmapが発行されました。INSICとはサンディエゴに本拠地を置く、ストレージ研究のために設立されたコンソーシアムです。このレポートの中で、今後10年間のテープの技術ロードマップと必要となる要素技術の詳細が述べられています。

このレポートでは、まず同じ磁気記録ストレージであるHDDと、テープの記録密度の推移を比較しています。HDD製品は毎年倍々で記録密度を伸ばしていた時代もありましたが、最近10年では平均7.6%/年の伸びにとどまっています。これは以前の予測をはるかに下回る成長で、HDDは超常磁性*と呼ばれる磁性の物理限界に近付いているためです。記録密度を成長させるには新規技術導入が必要なため、HDDの将来成長の予測は不確実としています。一方、テープ製品については、これまで平均34%/年(1994~2018年)で記録密度を伸ばしてきました。それでも現時点ではHDDに対して1/100程の記録密度しかなく、未だ物理限界には余裕があるため、今後も平均34%/年の成長は続くと推定しています。
ちなみに、記録容量は記録密度×記録面積で決まります。HDDの現行製品で最大容量は3.5インチサイズのディスクを9枚搭載した16TB(2019年時点)です。テープは0.5インチ幅で1km程の長さにもなるフィルムに大面積に記録することができるため、記録密度は小さくとも記録容量はHDDを凌ぐ20TB(2019年時点)にもなっています。

さて、将来のロードマップを達成するためには、どのようなテープ技術が必要となるでしょうか。キーとなる要素技術として、メディア、ヘッド、テープ搬送機構、信号処理が挙げられています。
メディアは、システムで必要とされるSNR(Signal to Noise Ratio)を達成するための微粒子磁性体、長くテープを巻くために薄厚ベースフィルム、が必要となります。将来の微粒子磁性体の候補として、ストロンチウムフェライトや、ε酸化鉄のような新しい材料の研究も始まっています。
ヘッドは、微小な記録ビットを再生・記録するための、微小で高感度なリーダー と、微小で高出力のライター、が必要です。テープでは2017年からGMRリーダーに代わり、HDDで使われている高感度なTMRリーダーが導入されました。しかし、テープのTMRヘッドのサイズはHDDに比べるとまだ400倍も大きいため今後まだまだ微細化することは可能です。また、ライターにおいても、HDDで使われている単磁極ライターを導入するとより強い記録磁界を実効的に発生させることができます。ただし、これは垂直記録方式のライターであるため、メディアに軟磁性層を導入することが必要になります。
テープドライブのテープ搬送機構はトラッキング性能に影響を与えます。将来、データが記録されるトラック幅は121nmにも狭くなります。データを読み出すためには、テープを高速に走行させながらもヘッドがテープ上のトラックから外れないように振動を抑えることができる高精度なメカ機構が必要になります。
最後に、信号処理技術です。データ再生時に誤り(不良ビット)を自動的に修復する、いわゆるエラー訂正能力に関連します。テープでは強力なC1、C2という2成分のリードソロモン符号を利用することで、修復不能なエラー率はLTO7では10-20という高い信頼性を達成しています。将来はこのエラー率をさらに1/10にすることが目標とされています。

今回発表されたロードマップは、あくまで技術的な可能性を示すものであり、必ずしも現実の製品ロードマップに一致することを保証しているわけではありません。しかし、すでに次世代バリウムフェライトや、スパッタメディアの研究発表では現行製品の約10倍の記録密度は技術実証され、将来製品への道筋は現実的なものとして見えてきています。
2029年のテープ1巻の容量は723TBとロードマップには記載されていますが、それでもこのときの記録密度(278Gbpsi)は2008年のHDD製品と同程度、まだまだテープの進化の余地はありそうです。ロードマップを目指した継続的な技術開発により、未来には1巻で1PBを超えるテープも現実のものになるかもしれません。

*超常磁性:記録密度の向上に伴い、記録媒体が磁化を失う温度が室温に近づき、記録装置として利用できなくなる。

参考:INSICロードマップ 2019 http://www.insic.org/

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/about/detail.cgi?ca=1&ca2=292
本内容にてご質問などございましたら、JDSF事務局経由でお願いいたします。

 

2020年2月「3年目エンジニアが解説する,テープストレージを使ったSDS!」
2020年1月「未来のテープ」
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